Tuesday, October 07, 2014

アベノミクス再考

8月の初めに発表した、外人さん向けのアベノミクスの解説を論文(エッセイ?)にした原稿を、主催者に提出した。自分ではニュートラルなつもりなのだが、米国でアベノミクスの話をすると、お前はなぜそんなに悲観的なんだという顔をされ、逆に日本では自分の考えていることを丸出しにすると、かなりの楽観主義者だとみなされる傾向にある。

で、2ヶ月前の発表から原稿の完成までに、景気に関してはかなりネガティブなニュースが続いたので、以下はそれに関する雑感:

1.「消費増税」というけれど、1989年の消費税導入は所得税の恒久減税とワンセット、97年の3%から5%への税率引上げでは所得減税が先行し、景気が回復するのを待ってやっと引き上げたという経緯がある。つまりここまでは、日本の税制が直接税(所得税)にウェイトを置いたシステムから、間接税(消費税)にウェイトを置いたシステムに移行していくプロセスに過ぎなかった。今回は、事前に景気対策で点滴を打っておいたとはいえ、家計にとってのネットの恒久的な増税の大きさでは89年・97年を大きく上回っているはず。私なんか、よくこの程度の消費の落ち込みでおさまっているよな、と思うんですが、みなさんどういう物差しで話をしているんでしょうか?

2.消費税引上げを1年先延ばししたとして、何が起こるか? 将来への負担の先送りとか言う前に、マーケットで何が起こるか考えた方が良いと思うのだが。

アベノミクスが、特に海外の投資家に高く評価された理由は、単なる緊縮政策austerityでも、単なるオールド・ケインジアンでもなく、「当面の経済成長率を引き上げつつ、長期的には財政再建にコミットする」というバランスを追求したからである。無論、1年先延ばしして劇的に景気回復すればそれもありだろう。しかしダメだったのでもう1年、またもう1年ということになれば、金融市場は安倍政権を見放すだろう。

というか、そもそも政府関係者が願っているほどには、マーケットは自民党政権の財政再建へのコミットメントを信用しているはずがないので、景気が悪くなるとすぐ注射をうちたがる古い自民党に首相が引きずられていると感じた途端に、株価は大幅下落し、円安が大きく進行するだろう。消費税引上げの先延ばしを主張している人たちは、「今そこにある」マーケットのリスクをちゃんと分かっているのだろうか?