Wednesday, October 17, 2007

ノーベル経済学賞の予想

ここ数年,付き合いのある新聞の編集者にノーベル経済学賞受賞者の予想を尋ねられると,「国際貿易でBhagwati, Dixit, Krugman」と答えてきた.国際経済学での受賞は99年のMundell以来いないし,貿易に限ればOhlinとMeade(二人とも故人)以来いない.業績から見ても妥当だというのは衆目一致するところだが,同時に一番若く業績も華々しいPaul Krugmanについて,近年の言動に眉をひそめる人が多いことも確かで,そのために特に受賞が遅れているという見方すらある.とはいえ,今年のMaskinとMyersonはともに1950年代の初めに生まれているので,Maskin達より少し年下のKrugmanを含めた3人の共同受賞というのが,来年も一番可能性としては高いのではないだろうか.

かつては,Fisher Blackについてそのような見方がされていた節があり,MertonとScholesがノーベル賞を授与されたのは,Black が亡くなって数年後である.ファイナンスの学者の間では,Mertonとは甲乙つけ難いが,ScholesよりはBlackの方がずっと評価が高かったのは間違いない.

今年のノーベル経済学賞は

Hurwicz,Maskin,Myersonの3人が,メカニズム・デザイン理論の基礎の構築という理由でもらった.今年の受賞者はほとんどノーマークだったらしく,日本の新聞社もかなり慌てていたようである.Hurwiczは年を取り過ぎて時期を逸した感があったし,ゲーム理論系の受賞は最近多いので,後の二人は逆に10年先でも別におかしくなかった.

他の二人は全く面識はないが,Maskinはハーバード時代に1年目のミクロとゲーム理論の授業をとって,向こうは覚えていないだろうが,のこのこ研究室に質問に行ったことも何度かある.ハーバードといえども教授の全員が天才というわけではないのだが,Maskinは間違いなく天才だし,物腰が非常に柔らく学生もとっつきやすい,凄く良い人だった.それが裏目に出たのか,博士論文の審査委員会を作るときに3人目が足りないと,学生にお願いされて引っぱり出され,明らかに専門外の論文の審査に加わったりして,最後はそういう役回りが煩わしくなって,Princetonの研究所に移ったと噂に聞いている.逆に言えばあまりに頭が良すぎて,本当の意味で彼に知的刺激を与えるような学生は,Harvardといえどもそうそう数はいなかったと思う.