Monday, August 22, 2011

経済学書の翻訳

翻訳家の山岡洋一氏が亡くなられた.別に生前,故人と何のお付き合いがあった訳でもないが,訳業の質の高さには敬意を払っていたので非常に残念である.

経済学書の翻訳は非常に難しい.ただでさえ専門用語が多いのに加え,今の日本では良かれ悪しかれ,翻訳が経済学者の業績にカウントされることはないので,その質を問われることもない.その結果,日本語としてはまったく未消化の,横に原書を置いて読まないと意味が通じないような翻訳がまかり通っている(とは言え,昔の大家たちの訳した翻訳はさらに酷いことが多いので,業績云々の話ではないのだろうが).

経済学者のやる翻訳がそのレベルなので,(自称)経済評論家や中途半端な実務家のやった翻訳は,平均的にはさらに質が低く,よくこんなもの臆面もなく出版するよなといったレベルの本が,半端ではない数,出版されている.

長い間,「経済学を初めて勉強する人に推薦する本」の類を訊かれた時には,クルーグマンの『良い経済学 悪い経済学』を推薦してきた.その重要な理由の一つは,この本の日本語訳が非常にレベルが高いからである.クルーグマンの単行本は大半が邦訳されており,訳者のリストの中には私の指導教官や同僚も含まれているが,一般人が読むことを意識した翻訳として見た場合には,山岡氏の訳が頭一つ抜け出して質が高かったと言わざるを得ない.学部の2年生の時に宮崎義一の訳をゼミで読んで苦労したこともあり,同氏のケインズの『説得論集』の訳についても感心していただけに,まだ60代の前半で急逝されたのは残念なことだと思う.

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