Wednesday, January 30, 2019

勤労統計の不正調査の意味するもの(1)


今日の午前中は,諸般の理由で研究室待機だったので:
現政権を擁護する気は無いが,この問題で与党批判をしようというのには根本的に無理がある.確かに,勤労統計の不正調査で勤労者の賃金が過小評価されていたのだとすれば,失業保険や労災の額に直結するので,その対象となった人たちが大きな不利益を被ったことは間違いない.これは確かに大きな問題だ.

一方で,勤労統計の不正が,最近の日本経済のパフォーマンスの評価にどう影響するかは,現時点で全貌が分かっている研究者はほとんどいないだろうし,ましてやマスコミ関係者には皆無だろう.勤労者の賃金の過小評価が、GDP統計の雇用者報酬の過小評価を意味するとすれば,他の部分の推計が何の影響も受けないのであれば,近年のGDP推計も過小評価だったことになる.しかし,雇用者報酬の過小評価は,企業の営業余剰の過大評価とセットになっている可能性が高いので,GDP自体が過小評価だったかどうかはよくわからない.少し雑駁な言い方をすると,経済全体のパイを労働者と資本家に分けるものとして,今回の勤労統計の不正は,労働者の取り分の「水準」を過小評価していたということなので,パイ全体に占める労働者の取り分の「比率(=労働分配率)」も過小評価していたのは,ほぼ間違いない.一方でパイ全体の大きさについては,恐らくは若干は過小評価だったのだろうが,具体的にどの程度の過小評価だったのか,現時点で確信をもって,この位と言える人はいないだろう.

したがって勤労統計の不正調査の影響は,賃金と労働者への分配を過小評価していたという点からも,GDP推計が過小評価だった可能性が高いという点からも,数字的にはアベノミクスの結果を過小評価していたということになる.それが現政権の意図していたことだと言うなら,いったい何の目的でそんなことをしていたというのだろうか?

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